どうしても「人」が欲しくて、自転車が走ってくるのを待っていた。
ここの桜並木が見事だと、教えてくれたのは、昔、つきあっていた人。
一緒に花見に来たことは、ない。
川沿いの桜並木は、地元ではそこそこ知られていると思うのだが、平日の朝、人の姿は少ない。
「駐車場は何時から入れますか」と尋ねた電話で、観光課のおにいさんは「川の桜もいいですが、駅の桜も観て行ってください」と控えめにアピールした。
齢を重ねた幹が、たわわに花をつけていた。
この路線には、何度も乗ったことがある。
この駅を含まない区間。
別れた人は、川沿いの桜のことは教えてくれたけど、駅の桜のことは言わなかった。
わけがあってのことか、ただ知らなかっただけなのか、もう知る由もなく、また知りたい気持ちもないけれども。
到着間際に改札口が開かれ、数名の客をさらって行く。
桜だけが、残された。
だが、その桜も、間もなく散ることだろう。